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2020年01月の記事

2020年1月16日

文徳中学・高等学校のことをもっと知りたいと思っている小学生・中学生とその保護者の方々へ 第181号

                          『いけいけドンドン』     

                                                                                                             学校長 荒木 孝洋

 高大接続の目玉のように言われていた大学入学共通テストの「国語・数学への記述式問題の導入」と「英語における民間資格・検定試験の活用」が頓挫した。確かに、記述式問題の必要性や英語の4技能(読む・書く・聞く・話す)の重要性は言うまでもないことである。しかし、ただ、それを共通テストに組み込むことに相当無理があった。文科省の事務方もそれはわかっていたはずだ。それでも、政策決定権者は違う決断をした。その後も、軌道修正の意見はあったに違いない。そうこうするうちに時は過ぎ、いつしか、「もう巻き返しは無理、かくたる上は規定方針の中で最善を尽くすべし」と切り替えたものの、異論続出、観念したかのように中止する。まあ、そんなところだろう。無関係の人は「まあ、どうにかなるだろう」と意見を言わないし、異論のある人も「和を乱す煙たいヤツ」と潰されたり放り出されたりしてはたまらないからブレーキをかけるのを躊躇する。“いけいけドンドン”の強風が吹くときに異を唱えるのは勇気がいるし止めるのが難しくなってしまう。
 丸山眞男氏の著書「無責任の体系」という本の中に、戦争勃発についての鋭い指摘がある。第二次大戦突入から敗戦に至る日本の意思決定の構図についての指摘である。【第一】現実を直視しない希望的観測。【第二】事ここに至っては後戻りできないと諦め、誤った政策を続ける既成事実への屈服。【第三】自分にそれを是正する力はないと自らの役割を限定する逃避。今回の入試改革の頓挫と酷似している。理屈を超えた大きな力で物事が動くときには危険が潜んでいる可能性を疑うべきだという指摘ではなかろうか。昨今の施策を見ていると、入試改革だけでなく、年金改革、働き方改革、中東への自衛隊派遣、IR法案など唐突で生煮えのまま“いけいけドンドン”と強引に進められているようで不安になる。教育改革もしかり。最近、特に気になるのが「GIGAスクール構想」だ。文科省のロードマップによると、23年度までにすべての小中学校の児童生徒に「1人1台」のタブレットなどの端末機器を整備し、20年度中に高速大容量の通信ネットワークを小学校から高校、特別支援学校のすべてに完備するとしている。この構想の発端は、2019年12月に公表されたOECDの学力到達度調査(PISA)の結果にある。日本の子供の「読解力」の低下、その主な原因のひとつは「デジタル読解力」の低さにあるとの指摘から、学校のICT機器整備を喫緊の課題と捕らえての構想のようだ。計画は良い、やる気も伝わってくる。しかし、本当に計画通り進むのだろうか?「何年度までに必ず何々する」といった、最初に年限ありきは頓挫した入試改革と相似形だ。考えなければならないことは山ほどある。自治体はついていけるのか?機器を管理し活用する立場の教員や学校への支援は十分か?未来図通りの効果的な活用が進むのか?セキュリティは大丈夫なのか?機器の故障はどうするのか?数年後の更新はどうするのか?など、どこまで続く????
 さらに、難題なのが子供たちの活用法だ。学校にネットワークが整備されると、子どもたちはタブレットもスマホも自由自在に使えるから、学習活動よりもゲームに熱中するのは火を見るより明らかだ。すでに大半の高校ではスマホの学校持ち込みは許可しているから、指導の困難さは実証済みである。まして、自制心が弱く興味関心の塊のような小中学生にスマホやタブレットを持たせたらどうなるか。ゲームはおろか、猥褻画像の検索も簡単にできるし、盗撮も心配しなくてはならない。とんでもない光景が学校文化になりそうだ。文科省は入試改革の失敗から正しく学ばなければならないのに・・・またもや同じ構図が見え隠れする。グローバル化したネット社会では機器の活用は避けて通れない。しかし、急ぐあまり、結果的に、大人と子どもの“いけいけドンドン”の知恵比べになっては元も子もない。