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2019年5月13日
文徳中学・高等学校のことをもっと知りたいと思っている小学生・中学生とその保護者の方々へ 第173号
『イヤならやめろ』
学校長 荒木 孝洋
平成最後の体育大会が無事に終了した。全力で疾走する若者、颯爽とした演舞に歓喜する保護者、まさに平和の象徴的な姿である。そんな光景を見ながらふと思った。私達は日本というこの豊かな国に生まれてきたことを、もっと噛みしめるべきだと。年号が平成から令和へと移った今日、日本の来し方や自らの歩みを少し振り返ってみた。
日本は、今から77年前の昭和16年、世界を相手にして第二次大戦に突入した。燃料がない、食べ物がない、死にたくないのに殺されるかもしれないという恐怖にもおののいた。終戦の翌年の昭和21年に生まれた私は、戦争の直接体験はないが、戦後の食料難で白いご飯を腹一杯食べられるだけでも満足したものだ。しかし、今の日本はそんな状況にはない。食べ物は溢れているし、他人を批判しても殺されることもない。外国から攻められて防空壕の中で怯えることもない。でも、世界にはそうではない国がたくさんある。餓死の恐怖に脅え、明るい未来が全く見えない。幸福とは何かなどと考える余裕もない。そういった国の人々は生きていることだけで精一杯なのだ。そう考えたら、私達は日本に生まれたというだけで90点もらっているようなものだ。零点に近いような国からすれば、考えられないような幸せ者と言えるだろう。だったら、老若男女を問わずせめてあと5点ぐらいは自分の努力で何かをしなければバチが当たる。
先日、『イヤならやめろ』という本を読んた。各種の測定機器を製作する堀場製作所の創設者である故堀場雅夫氏の著書だ。次のようなことが書かれている。「仕事がイヤだ、会社がイヤだと文句を言うなら、辞めてしまえばいい。ただし、辞める前に本気で仕事に取り組むこと。必死になって今の仕事をやってみて、それでも自分に合わないと思ったら辞めればいい。本気でやったこともないままに辞めるのは、単に逃げているだけだ」と。さらに、「我が社の社是は『おもしろおかしく』です。これはふざけているのでも何でもない。面白く好き放題にすることでもない。本気で取り組めば、必ず仕事は面白くなる。いや自分の力で仕事を面白くしてしまう」とも書かれている。授業がつまらない。今の学校は自分に合わない。そんなことを先生や親に向かってブツブツとボヤいている人を時々見かけるが、そんな人には、堀場氏の文章で、仕事を『勉強』に会社を『学校』に置き換えて自省を促したい。「勉強がイヤだ、学校がイヤだと文句を言うなら、辞めてしまえばいい。ただし、辞める前に本気で勉強に取り組むこと。必死になって今の勉強をやってみて、それでも自分に合わないと思ったら辞めればいい。・・・本気で取り組めば、必ず勉強は面白くなる。いや自分の力で勉強を面白くしてしまう」となる。ボヤいているばかりの人生なんてつまらない。せっかく素晴らしい環境に生まれたのだから、そのことに感謝し、厳しい環境にある人達にも思いを馳せながら生きていきたいものだ。そのためには、今、自分の前にあることに本気になることだ。本気は“元気の源・根気の支え”本気でやってつまらないことなどひとつもないはずだ。
ところで、「先行き不透明」とか「今ある仕事の半分は人工知能に乗っ取られる」などの報道を聞き、自らの夢や進路希望に不安を持っている人もいるだろう。確かに、グローバル化した社会は、これまでのセオリーが当てはまらない予測不可能な未知の世界かもしれないが、それは今始まったことではない。最近は、学歴より学習歴とも言われ、大学を卒業してもそのブランド名が通用しない場面が増えている。しかし、それは学歴を無視しているわけではなく、むしろ逆に『学び』の深さや広がりを求めているのだ。どんな環境でも、どんな世界でも、生きていく『知』を身につけることの大切さを説いているのだ。本を読み、人と触れ合い、行動し、想像力を膨らませて自らを磨いて欲しいと思う。いつの時代も社会は(これまでも、今も、これからも)、本気で学ぶ人、本気で仕事をする人を求めている。