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2015年11月の記事

名著を紐解く

2015年11月24日

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文徳中学・高等学校のことをもっと知りたいと思っている小学生・中学生とその保護者の方々へ 第137号

 

『名著を紐解く』

学校長 荒木 孝洋

 

 “人間は『人から学ぶ』『本から学ぶ』『旅から学ぶ』以外に学ぶ方法を持たない動物である”という言葉を聞いたことがある。「なるほど」と合点である。私自身も振り返ると、教師になったのは凄い先生と出会って「こんな人生を歩みたい」と思ったのがきっかけだし、タイの学校を訪問して子どもたちの真剣な眼差しに「日本人は大丈夫かな?」っとドキッとしたこともある。しかし、人や旅よりも『本から学ぶ』機会が一番多かったような気がする。一生の間に会える人物は限られているし、旅もしばしば出来るわけではない。アメリカに渡ってもオバマ大統領に会える確率は限りなくゼロに近いし、すでに亡くなっている歴史上の人物に会うことは不可能である。しかし、読書は違う。旅行に比べれば本の値段は安価で、何時でも何処でも読める。本屋に行けば読みたい本が即座に購入でき、図書館で借りることもできる。しかも、読めば読むほど思考が広がり考えが深まる。同じ文章でも読み返すたびに自分の至らなさに気づかさせられることもシバシバ。是非、若い人たちにはたくさんの本を読んで欲しいと願っている。今年のノーベル物理学賞を受賞した東京大宇宙線研究所長の梶田隆章さんは、子どものころから大の本好きだったそうで、母親が「目が悪くなるから、少し休んだら」と注意しても、隠れて読んでいたそうだ。

 

 ところが、現実は活字離れが深刻になっている。街を歩いている人も、駅の待合室も、バスの中もスマホを見つめる人ばかり。本を読んでいる人をほとんど見かけない。全国大学生協連の調査では、大学生の40.5%が読書にあてる時間はゼロと答えている。しかも、ゼロと答えた学生のスマートフォン利用時間は1日平均3時間と最も長いそうだ。これは若者に限った現象ではない。文化庁の国語世論調査によると、「一ヶ月に全く本を読まない人」が47.5%、「読書量が減っている」という人が65.1%。もちろん、スマホで本も読めるだろうが、日本人全体で読書離れが加速しているようだ。その理由は「仕事や勉強が忙しく時間がない」に次いで、「視力などの健康上の問題」が2番目に多かったそうだ。読書にはある程度の時間的余裕と体力が必要ということであり、やはり、体力・気力とも充実している若いときこそ多くの本が読める絶好のチャンスだということになる。

 

 一方、スマホの普及で情報伝達が速くなり、利便性は大きく向上したが、失うものも多い気がする。そのひとつが、結論や答を急ぐことだ。複雑な要素が絡んで無数の選択肢があるはずの難題も、「YESかNOか」「是か非か」といった二者択一の選択を求めたり、誰かが作った結論に付和雷同する傾向が強まっている気がする。確かに、結論を先行させれば時間や労力は省けるだろうが、思考はそこで停止し、他の意見の存在にも気づかず、他者への寛容の心も生まれにくい。グローバル化した現代では、情報に素早くアクセスしたり、それを処理する能力が求められるのは仕方がないにしても、スマホやネットの断片的な情報は体系的に物事を理解したり、大きな文脈で考えたりするのには向いていない。結論が明白のように思える案件でも、違う考え方や立場があり、より正しい結論に達するためには、広く判断材料を集めたり、自分の脳でジックリ考える時間を持つことがもっとも大切だ。

 

 まもなく、選挙年令が18才に引き下げられ、若者の意見が政治にも反映される社会が到来する。広い視野と豊かな想像力を持って未来を切り拓いて欲しい。そのためには訓練がいる。運動神経がよほど優れていたとしても、全く練習しないでテニスや水泳が上手になるはずがない。同じように、人間の脳も習練を積まなければ賢くはならない。スポーツも芸事も、名人に教えを受ければ上達が早い。同様に思考力を高めるには、古今東西の名著を紐解くことが一番であろう。